百年は短いが十年は長い

 

[1]つい百年前

 数十年生きてみると、100年前なんて最近のことのように思える。僕がピングーのVHSを至近距離で見過ぎたせいで視力を落としたのが25年前の話なので、百年なんてせいぜいピングー4匹分の重みしかない。

 人間は短い時間でどんどん偉そうになっていく。8年前最初に入ったブラック企業で出会った係長が今年課長になっていることを知った。権力欲の強い係長だったので、年々偉さを身に纏って権力を手に入れて、代わりに脳が固まってどんどん大切なものを失っているように見えた。

 いくら権力を手に入れたって、人間はピングー数匹分くらいしか生きることができないのに。そんなことを思いながら久し振りに読んでいる歴史の本は2000年の時間の距離感で書かれていて、あぁピングー80匹分かぁ、と思って頭の中がペンギンだらけになった。

 

[2]つい十数年前

 JR難波の改札を抜けると、若干の広場がある。毎朝誰かが演劇の練習をしていたり、夜はダンスや、漫才の練習をしている。夢中になっている人は、いつだってかっこいい。

 高校を卒業して10年以上経つと、恐ろしく皆人生が分岐していて、友達が漫画家になっていたり、演劇をしていた友達は変わらず演劇をしていたり、警察官になって社会も家庭も守っていたり、話したことも面識のないただ在学期間が被っていた方が賞レースで優勝していたり、自分が16ビートはやおとかいうヘンテコな名前になっていたりする。

 ただ夢中になれるものに縋ってきた、というと聞こえはいいけれど、ただ最高の人生の暇つぶしとしてドラムを叩いてきたこの十数年は、割と悪くない。ドラムを叩き続けて、先日のHERE主催のハイテンションフェスのアンコール、ドラえもんのカーディガンを着てステージに呼んでもらえるくらい、人生は楽しくなっていた。

 いいともグランドフィナーレくらい人が集まったステージを配信で見返しながら、ドラムを始めたつい十数年前を思い出して、「百年は短いけれど、十年は長いな」というちぐはぐな感想を抱きながら、広場のすぐ横のカフェでくつろぐ僕だった。