負け組の履歴書

[1]履歴書 他人の人生を喰らって生きている。ブラック企業に勤めていたある時、社長に呼び出されて分厚いファイルを手渡された。そのファイルには大量の履歴書が綴じられていた。めくってもめくっても、知らない人の顔写真が続いた。 「これはね、負け組」…

お金と地位と泥団子

[1]大阪の終電 治安が悪い。本当大阪ってやつは。ZOOZのスタジオ終わりで京都から大阪へ帰るとき、どうしても終電に乗る時間になる。大阪駅ではぎゅっと濃縮された人間の業と沢山の欲望と吐瀉物が散乱している。 酔っ払いと駅員が揉めた直後の改札付近で、…

恩を返す季節

[1]恩を返す季節 ブラック部署で心を病んで職を辞め、続けて別のブラック企業に勤めてしまい、働けど働けど人生は好転することもなくむしろ懐も心もじり貧に向かう最中、他の可能性を拓く気力もなく、バンドは続いていたがもう色々人生詰んでいた5年ほど前の…

幸せは足元に

[1]ちょっと変な僕 「あんたちょっと変やけど面白いね!!」母が僕の姿を見えなくなるまで見送るときに、笑顔で発した言葉がやけに心に残っている。 晴れて検査入院から退院ということで、何かあってはいけないと母を病院まで迎えにいったが、結果的に母か…

どんな大人にもなりたくない

[1]灰色のマフラー 久しぶりに母に会った。「高校生の時にマフラー編んでくれたよね。あれ、今でも全然捨てれなくて家にあるよ。」と言ったら「そんなん編んだっけ?全然覚えてへんわー!」とあっけらかんとした返事が飛んできた。 電話やメールではちょこ…

夢と悪夢

[1]ネクライトーキー 仕事の帰り道、Spotifyのシャッフルでネクライトーキーが流れてきた。「学生の時に出会っていたら衝撃だっただろうな」と思うと同時に「学生時代にコピーはしてないかもしれない」とも思った。 これは本当はコピーしたくてたまらない…

貧乏は買えない

[1]貧乏は買えない 「苦労は買ってでもしろ」というが、買えるのならばまだ安い。貧乏はそもそも買えない。僕の育った家庭は色々あったので貧乏だった。自立した今も決して多くの余裕があるわけでもなければ、どちらかと言えば貧乏だけれど、それで良かっ…

垂れ流されるニュースにぶら下がる人生

[1]心はどこかに 荒れた中学校だったので良い思い出は多くはない。力のみが学校のヒエラルキーになっていたので、喧嘩の強いやつは権力が強く、弱いやつは身を寄せ合って三年間を過ごしていた。勿論僕は後者だったので、休み時間にすれ違うだけで殴られた…

百年は短いが十年は長い

[1]つい百年前 数十年生きてみると、100年前なんて最近のことのように思える。僕がピングーのVHSを至近距離で見過ぎたせいで視力を落としたのが25年前の話なので、百年なんてせいぜいピングー4匹分の重みしかない。 人間は短い時間でどんどん偉そうになっ…

寝ても覚めても人生は続く

[1]嫌気 なりたい自分から離れている。試験に合格して年収を上げ、社内の地位を上げることが自分の人生に必要なのか。目先の生活を楽にするためには必要だけど、本当に大切なものからはどんどん遠ざかっている気がして、ここ数ヶ月揺れていた。 高校の先生…

双子座で良かった

[1]バナナオレを飲み干す間に 「おめでとうございます!集大成です!」。しいたけ占いは双子座の僕に対して、2022年の10月、下半期で一番ツイていますよ、と占ってくれていた。 そんなこともすっかり忘れつつあった僕は、ひたすら10月に控える試験勉強に勤…

「疲れ」という病

[1]10年前の付箋 世界史。大学院生の頃に購入して、そのまま押し入れに10年近く詰め込まれたままの世界史の本は、先日僕の断捨離に巻き込まれて、幾らか家から姿を消した。 しかしながら多数の本は大学院生の頃に貼った大量の付箋と共に発掘され、どうして…

現像されない写真

[1]インスタントカメラ 引き出しに仕舞われたまま。高校3年生の時に遠足で行ったUSJで撮ったインスタントカメラは、十数年経った今も現像されず、実家の引き出しに仕舞われたままだった。 遠足の後、学校に戻って余った枚数を消費する段階で、友人が事もあ…

通学路旅行

[1]大予言 1999年。ノストラダムスの大予言を信じていた僕は、その年に始まったアニメ版キョロちゃんを後数回見たら人類は滅んでしまうんだと本気で考えていた。 滅亡月の7月には、カゴにお気に入りのぬいぐるみをパンパンに詰めて、滅亡が始まったらすぐ…

ピュアでありたい

[1]宇宙ターザン 「みんな不人情だ。ほんとのファンなら、落ち目のときにこそおうえんしなくちゃ。」宇宙ターザンを見捨てない宣言をする勇ましいのび太の姿が描かれているが、この一文をバンドのことに置き換えず、意図せず人生に置き換えて読んでいる自…

1ヶ月遅れのお土産

[1]キーウィのぬいぐるみ 島根に行った時、母にお土産をいくつかを買ったものの、いざ送るとなると途端に面倒になってしまって1ヶ月ほど放置してしまっていた。 ずっとテーブルに置かれたお土産に目が慣れたころに、これはいけないと、そそくさと段ボール…

俗世に染まらないために

[1]迷わず俗世へ還る 「俗世に戻るなら今のうちだよ」 大学院は前半が修士課程、後半が博士課程に分かれていて、当時の教授が言うには「博士課程に踏み入れたらもう俗世に戻れない覚悟をしなさい」という意味で、俗世に戻るなら今のうち、と表現したのだと…

大人が大人になるということ

[1]団地の景色 ブラック企業を二度辞め、それでも生きていかなければいけないから、この際やったことのないことをと思い、しばらく警備員をしていた。もう5年くらい前のこと。そこにあったのは不器用な人の温かさだった。 団地エレベーター工事の警備は基…

時間とお金とアウトレットスネア

[1]貧乏は楽しい 僕が子どものころ、間違いなく家は貧乏だったが、不自由だと感じたことはほとんどなかった。それは当然そうで、そもそもお金持ちを経験したことがないのだから、身の回りの環境を憂う発想自体なければ、片親だったが母は僕に目一杯、毎日…

ひのとり

[1]鉄は熱いうちに打て 日常。ガストバーナーツアーファイナルが終わり、疲れた体を引きずって家に帰ると、当然ながら家の中は出発した時のままで、なんだか僕たちがファイナルと息巻いていても、その前後で身の回りの世界が変わるわけでもなく、脱いだま…

「つよくてニューゲーム」はできない

[1]時を戻す魔法 魔法は使えなかった。夏休み最終日、小学生の僕は「明日起きたら夏休みの初日に戻ってますように!」と強く強く祈りながら寝ていた。しかしながら成功したことはない。 それはきっと、「できたら宿題は済ませた状態で初日に戻りますように…

謝って済まなくても警察は要らない

[1]起き上がりこぼし 寂しさの顕れだったのか。中学生の頃に飼っていた青いセキセイインコは雛から育てたので、僕の鎖骨の窪みでうとうとするくらい、お互い許しあえる関係だった。 その青い子含めて何羽か飼っていたが、僕が高校生になる間にその青い子だ…

久しぶりの人の突然の電話は怖い

[1]人生の落とし所 虚しい。朝早めに会社に着くと、「自分は何もしないが人の悪口を言うことで活き活きと輝くお局さん」がすでにエンジン全開で、会社の、同僚の不満を垂れ流していた。 僕は、朝と対極にあるお局さんの悪口に虚しくなるのではなく、「この…

前歯は何回折ってもいいですからね

[1]前歯を折った日 「俺だってドラム上手くなりたい!!!!」軽音楽サークルの飲み会終わり、お酒に酔った友達が、深夜の大学の池に飛び込み、ずぶ濡れになりながら叫んでいた。 そんなぶっ飛んだ奴と、大学を卒業しても年に数回のペースで飲みにいくこと…

昔の友達にはもう会えない

[1]免罪符 安心は病名から得られる時もある。かつてブラック企業勤めで限界がきてしまい、あれもこれも信じられず複数の心療内科に通っていた頃を振り返ってみると、なんだか僕は「あなたは鬱です!」とはっきりと言ってもらえるところを探していただけの…

ベルトコンベア

[1]山羊革のズボン 高校生の頃、国語の先生は「40代に入り、僕が子どものころに元気だった大人がどんどん亡くなっていって、まるでベルトコンベアに乗っているみたいに死に向かっている気がする。」と言っていた。 当時「死」なんて果てしなく遠くにある活…

頭から血を流した人に会いたい

[1]役に立たない なぜ、前を走る知らない人のチャリから投げ捨てられた燃えたままのタバコを、たまたま後ろを歩いていた個人練帰りの僕が踏み消さなければいけないのだろう。 そんな帰り道、お弁当屋で注文を待っていたら、女性がすごい形相で店員さんの元…

進め地獄へ

[1]エンドレスおじさん 「世の中はな、どうせエンドレスなんだよ!!分かっとるわ!エンドレスなんだよ!」 上司の結婚式の帰り道、泥酔して自宅から20キロ離れた駅に放り出された僕は、タクシーで帰れば良いのに、何かエピソードと、ついでに健康もほしい…

ぬいぐるみは捨てられない

[1]ペンギンショック ぬいぐるみには魂が宿る。小さい頃に遊んでいたペンギンのぬいぐるみは、小学生の頃に母親が僕に黙って捨ててしまった。が、襖の隙間からペンちゃんがゴミ袋に詰められる様子を目撃してしまった僕は、そのセンセーショナルな光景にシ…

老いと酒瓶と社会人

[1]割れた酒瓶 華金。ZOOZの練習終わり終電に揺られていると、仕事終わりのサラリーウーマンがホームで盛大に転けてしまった。彼女の手に握られたスーパーの袋がコンクリの地面に打ちつけられ、中に入っていた酒瓶が割れ、破れた袋の隙間からアルコールが…