過去の亡霊

 

[1]双子座のあなた

 今年最大の失敗は、10年以上前から更新が止まっていたmixiの自分の日記を、恥ずかしくなって全部消してしまったことだ。来年は、過去の自分の亡霊とより熾烈に闘うことになるというのに。

 とかく今年は「やりたいことは全部やっちゃいな」という、しいたけ占いに突き動かされるように、時間貧乏症の僕はこの一年であれもこれも、やりたいことも思考も睡眠も全部欲張りながら、時にキャパオーバーになりながら過ごしていた。

 年末になってみると自分に必要な思考や行動、習慣だけが輪郭付いて残り、来年を見据える視界には、過去の自分の亡霊が立っていた。

 

[2]他人の人生は楽しいのか

 「すげーなお前、なんか貰ってるやん!」「多分四万くらいの服やろな、これ。あいつ、親が金持ちやし道場とか持ってるし、何でもお金で解決してくれるから良い奴なんよ!」「金持ち良いなー!」

 まぁ、大阪の二十歳そこそこのやんちゃな男性達の会話はこんなもんである。人情を引き換えに治安の悪さを手に入れた土地に縛られたような、スタジオ終わりの終電で耳に入ると疲れが増すような会話の連続だった。自分と関わりのない人の人生は未知の極みである。

 電車に揺られながら、彼らは一体何のために生きているんだろう、と考えていた。生きることに目的なんてないとは思うが、中身のない生き様を見せつけられるのは悲しい。そんな彼らも本来は過去を背負っているはずで、過去の亡霊が視界に入らない人生も幸せなのかもしれないなと思ったムカつくけどね。

 

[3]室内ピクニック

 今年のことを思い返してみる。僕には四万円の服も、道場も、何でもお金で解決してくれる友達も居なかったが、代わりにバンドメンバーだったり、ライブハウスや対バンの人であったり、お客さんであったり、家族であったり、沢山の優しくて厳しい人に囲まれて過ごしていた。

 僕が四歳くらいの頃に「室内ピクニック」と称して、ペンギンやら、カモやら、大好きなぬいぐるみたちに囲まれてお菓子を食べるイベントを母親が開いてくれた時点で良い人生は確定していたが、今年はぬいぐるみだけでなく、良い人達に囲まれた一年だったようだ。

 過去の自分と闘う気力は、そういった良い人達に分け与えてくれた力が原動力となっていた。

 

[4]小骨を取り除くように

 なにを、という決定的な出来事があったわけではない。しかし、この一年どの場面を取っても僕は過去の自分と闘っていた。

 一本一本ライブに向かう気持ち、ZOOZのレコーディング、ガストバーナー遠征の車内での会話、THE SALARYMENでの屋外撮影、試験勉強、とあるきっかけで久しぶりにEmu sickSの4人で集まったこと(さらっと言う)、「やりたいことは全部やっちゃいな」精神で突き動かされていたことは、全て過去の自分が力不足や要らぬ遠慮から成し得なかったことへの後悔からくる行動だった。

 過去の自分と闘う今の自分も、数年後にはいずれ過去になる。振り返った時に、今の自分も、やがて後悔の塊になるのだろうか。そうなったとしても、なるべくそうならないよう最善を尽くして生き続けよう、自分と闘い続けようと思いつつ、楽しい人生だなと思う一年でした。みなさまありがとうございました。来年も、何卒。