Night
ZOOZ 3rdアルバム『Night』のアレコレ
[Spotify]
https://open.spotify.com/album/4tFn1APJ1jZeBoJ5xryESK?si=qKZc7LKIRK6pSLNDEkm7Ow
[Apple Music]
https://music.apple.com/jp/album/night/1588895582
[各種リンク]
[通販](KOH-GEN RECORDS)
https://kohgenrecord.thebase.in/items/53595548
[1]大阪の治安
緊急事態宣言が解けて曲がりなりにも戻ってきたかつての大阪の治安は、僕の居心地の悪さを引き出すには充分だった。
ZOOZは京都で練習しているので、平日仕事終わりにスタジオに入ると、大阪へ帰るためには必然的に終電に乗ることになる。大阪環状線の終電は浅めの地獄だ。酒気を帯びた、上手いのかどうかはさておきアマチュアボクシングに自信がありそうな人々、怖いもの知らずの大学生集団の声の大きさ、疲れをストロング缶で誤魔化すサラリーマン、広々と座る髪型だけはキマっている社会人カップルの膝の開く角度から隠しきれないマウント気質、当たり前に景色に馴染む嘔吐物、叫び、それらに怯え静かに背景と化す僕を含めた人々、と言った具合である。
コロナも嫌だが戻ってきつつある治安も嫌だなと思った。そんな自分が本当に都合よく世の中を解釈して生きているなと辟易した。
[2]世の中に絶望している
自分にとって『Night』は世の中の、大なり小なりあらゆる不条理に大きく振り回されて作ったアルバムになる。世を包むあらゆる暗さ、恐怖、絶望に対して静かに過ごしたい気持ち、心の淀み、またはさざなみのような怒り、無関心でいたい気持ちを内包している。無論、大阪の治安にも無関心でいたい。
自分達の中では音楽はそういった暗い、居心地の悪い世の中と離れるための手段であり、楽しく作ったつもりだったが、できたものを聴き直してみると、知らずとあらゆる世の暗さに向き合ってできたアルバムのように思える。
5月29日に京都nanoのベンチでメンバーと話して『Night』というタイトルは早々に決まった。他に幾つか僕が候補を出していて、中世ヨーロッパの迷信や明治大正への時代変遷期のどん曇りのような重ためのタイトル候補を持っていったが、結局一番シンプルな『Night』に落ち着いた。メンバーはやはり、あらゆる面で頼もしい。
[3]まだ世の中に絶望している
すごく良いアルバムができたと自画自賛しているが、本当はできるだけ沢山の自画他賛をされたい。
例えば終電の大阪環状線に乗り合わせる人々の一体どれほどに、このアルバムは伝わるのかと考えたが、あぁ伝わらないなと結論づけ、再び絶望した。これは僕の思考の悪い癖だ。
が、いざ『Night』を出してみると幾分か気持ちが落ち着いてきて、自分が良いアルバムだと思えること、それだけで良いのかもなと感じてきた。自分達が出したアルバムに、自分の感情が揺さぶられて泣けるというのは、素晴らしいことなんだと思う。
詰まるところ他人に沢山聴いてもらいたいなんて驕った考え自体は捨てるべきなのかもしれない。が、沢山の人に聴いてもらいたい、烏滸がましくも良いと思ってもらいたいという欲を否定するのも嘘になる。他人の「あんまり良くないな」という感想も受け止めなければならない。世の中に絶望する前に、まずは自分からあらゆるものを受け止めることから始めたいと思う。
ただ大阪環状線の終電は、受け止める自信が今はないなぁ。