犬に襲われるなど

 


朝の5時前から外に出る用事のある僕も僕だが、早朝から犬に襲われてからというものの、とにかく運が悪い。

 


その犬はどこぞの立派な家の飼い犬で、僕はその家の前を通りかかっただけだった。勿論家の敷地に入ってはいないし、余計な素振りも見せていない。

 


遠くから犬が吠えるなぁと思っていた。そしたらタッタタッタと走ってきた。リードをつけていない放し飼い状態だった。リードをつけていない事実と、遠くで見るよりも近づいてきたらでかかったことと、随分家から離れているのに追ってきたことで僕はとても怖くなった。

 


クロックタワー2(PSのホラーゲーム)をプレイしたことのある方ならわかると思うが、ステージ2で選択肢を誤ると飼い犬に噛み殺されてしまう場面がある。

 


幼少から何十回とプレイしたクロックタワー2の場面が脳裏にフラッシュバックし、僕の怖さは倍増した。「噛み殺されてしまう」

 


ゲームでは、粉せっけんで犬を目潰しして難を逃れるが、令和の世に粉せっけんを常備している人などいない。と同時に、飼い犬だから傷なんかつけたら可愛がっているであろう飼い主にひどいことをしてしまうとも瞬時に考えた。

 


僕は飛びかかってきた犬に対して持っていた傘で身を守りながら必死に逃げた。逃げまくった。あの瞬間は世界で一番僕が緊急事態だった。

 

 

 

しばらく逃げ、転げるように畑に足を踏み入れると、犬は追ってこなくなった。朝焼けに照らされ逆光でシルエットだけになった犬が遠くにそびえていた。僕は犬に負けたが優しさで勝ったと思った。

 

 

 

そこからとにかく運が悪かった。

立ち寄った銭湯で僕のシャワーだけ壊れて水流が全開になり止まらなくなった(犬に襲われた日だった)。練習が終わって家に帰ると足の爪が剥がれていた(絆創膏で止めた)。何もしていないのにパソコンの電源ケーブルが断線していた。最終的にはお給料を間違って少なく計算されていて「ごめんね差額は来月ね★」と言われどん底に落ちた気分になってそのまま誕生日を迎えた。

 


今はある程度落ち着いて「運悪い期間」を脱しつつある。ジョジョの作者である荒木飛呂彦氏が文庫本40巻のあとがきで「何もしていないのに、わけもわからず攻撃される時期」を表す、『攻撃される季節』のことに触れていたが、きっとそういう乱気流のような季節に突入していたのだろう。

 


ただ、その間すごくレコーディングした。これでプラマイゼロだ。そう思わないと、自分が報われない。