保身の地雷

 

[1]青春はぼやけている

 朝の目覚めがよく、勢いよく二段ベットの上階から梯子を何段か飛ばして飛び降りて着地した僕のかかとに痛みが走った。母親に買ってもらったメガネが何故か床に転がっており、着地と同時に踏んでしまい、ひしゃげて、レンズが外れ、壊してしまった。これは中学の頃の話である。

 「せっかく買ってもらったメガネが壊れたことを母親に知られると悲しませてしまう」という、本当はただ怒られたくないという自己保身の気持ちを精一杯誤魔化し、「学校にメガネを置きっぱなしにしている」という見え見えの言い訳を携えて、有耶無耶にしたまま視力Dの裸眼の高校生になってしまった。

 そのため視界の守備範囲は非常に狭く、顔よりも人の動きや全体的なフォルムで誰か判別するような青春を過ごしていたため、高校の楽しかった思い出はほとんどぼやけていた。

 

[2]思い出に彼はいなかった

 先日ラジオに出演した。同じ高校の先輩であるが、当時はほぼ交流のなかった「空きっ腹に酒」のギター西田さんの番組だ。十数年の時を経て、そんなに仲良くないままラジオのゲストに呼ばれた(ガストバーナーのギターの加納さんが出れない、はるきちさんが出れない、それならそんなに話したことは無いが高校の後輩である関係のうすーい僕でなんとか、いう流れである)。

 必死に記憶の中に潜り込んで当時のエピソードを探すも、思い出の視界がどれも視力Dの裸眼でぼやけていたので、どの場面でも西田さんを見つけることができなかった。ガストバーナーのメンバーがメッセージを送ってくれたり、結果ラジオ自体はなんとかなったのかならなかったのか分からなかったが、時を経て西田さんと話せたのは本当にありがたい時間だった。

 

[3]保身の地雷

 ラジオ終わりの電車の中で回想する。メガネを壊してしまったときに、素直に母親に謝りにいけばよかった。そうすればその時は怒られはするものの、きっとメガネを新調したりなんなりで、視界良好な高校生活が待っていたはずだ。そうすれば高校生活に西田さんが入り込む余地はもっとあったのかもしれないし、ラジオで話せるようなエピソードももっと出てきたかもしれない。

 一時のつまらない自己保身が塵のように積もって爆発し、令和の僕を苦しめることになった。過去に自己保身の為に無意識にでも、意識的にでも取ってきた行動は他にも沢山あるはずで、これからの人生の場面場面で、何かの折につけて保身の地雷は必ず爆発する。

 爆発する度に、後悔しながらしっかりダメージをくらう。過去の自分よ、もっと素直になっとけよ。素直であれば、こんなに今苦しむことはなかったんだから。保身の地雷のダメージを負った僕は、足を引きずって未来に向けて歩まなければならないが、なるべく未来の自分には優しくいたい。