双子座で良かった

 

[1]バナナオレを飲み干す間に

 「おめでとうございます!集大成です!」。しいたけ占いは双子座の僕に対して、2022年の10月、下半期で一番ツイていますよ、と占ってくれていた。

 そんなこともすっかり忘れつつあった僕は、ひたすら10月に控える試験勉強に勤しんでいたので、9月が音もなく過ぎ去ってしまった。スタジオのない日は、仕事終わりに難波のカフェに寄って少し勉強するのが日課になっていたが、行けば必ず、互いにノートを睨み続ける男性二人組が居た。

 「やっぱり漫才のここが…」「M1用の構成が…」どうやら、漫才師らしい。毎日毎日、ネタの打ち合わせをしているようだ。M1のホームページを確認してみると、10月初旬にM1グランプリの1回戦が全て終わるようだが、聞こえる話の中では、まだこれから1回戦を受けるような様子だった。

 彼らの2人のうちに、双子座がいれば10月は下半期で一番ツイてるから合格するかもしれないな。そんなことを思いながら、もうしばらくカフェに通う予定の僕は、2回戦に進んだ彼らがまたノートを睨み合っている姿がみたいと願っていた。

 

[2]メダルはどこへ消えた

 人生で一番ツイているのはいつだっただろうか。思い返せば、5歳の頃、ジャスコの3階、メダルゲームコーナーの一角にあるカーレースを模したスロットで、99枚のメダルを当てた瞬間が人生で一番ツイていた気がする。

 後の人生は運が下り坂で、買ってもらったハイパーヨーヨーは4回でバラバラになり、シャボン玉が無限に出るバブルガンは、一度もシャボン玉を飛ばすことなく家を出て行った。

 不思議なもので、極端に良いことと極端に悪いことはしっかり覚えていて、よく考えれば良いことの原因は分からないが、悪いことの原因は必ずどこかにある。

 確かにハイパーヨーヨーはたった4回だったが興奮してかなり使い方が荒かったし、バブルガンはちょっとだけ機械をお風呂に浸けてしまったような記憶がほんのりとあった。

 

[3]心を騙さないために

 結局、何事にも因果はある。ツキが回るのは、なにか自分が起こした行動が回り回ってやってきただけだろう。

 今の生活のしんどい面も、楽しい面も、自分が選び取った人生の一端である。知らないセレブの生活を斜めに見て、自分が上手くいかないことを、身の回りの環境のせいにして心を納得させている部分はある。心を騙さないと、目の前のことを乗り切れない瞬間は、一日に幾度かある。

 が、本質的には、メダルが99枚あたることをただひたすら願う人生はつまらないと思っているし、そんな偶然をただ願うだけの毎日なら、毎日ノートを睨んで漫才を考える人生の方が果てしなく夢があるということも分かっている。

 少しでも人生を楽しくするために、とりあえず10月の試験を乗り越えたら、もう少し具体的に何かに取り組んでみよう。どうせ、取り組むのはドラムだし、バンドだろうけど。やっぱり10月は2022年の集大成かもしれない、そんなことを考える双子座の僕がいた。